どうぶつえんのいちや
動物園の一夜

冒頭文

一 樹立(こだち)の青葉は、病後の人のように喘(あえ)いでいる。 戦場に遺棄された戦死者のように四肢をだらりと投げ出してライオンが正体なく眠っている。虎も豹(ひょう)もごろりと横になって寝ている。孔雀(くじゃく)は妍(けん)を競う宮女(きゅうじょ)のように羽根をひろげて風の重みを受けておどおどしている。象は退屈そうに大きな鼻をぶらぶら振っている。大小無数の水禽(すいきん)のさざ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年 九巻一二号」1928(昭和3)年10月号

底本

  • 平林初之輔探偵小説選Ⅰ〔論創ミステリ叢書1〕
  • 論創社
  • 2003(平成15)年10月10日