ひみつ
秘密

冒頭文

一 私がこれから書き記してゆくような出来事は、この世の中では、決して二度と起こりもしまいし、たとえ起こったところで、当事者が私のような破廉恥漢(はれんちかん)でなければ、それを公に発表しようなどという気は起こさぬだろうと思う。第一そんな気を起こす前に、大抵の人なら、小刀(ナイフ)を頸(けい)動脈へつきさして、時間的に、そういう考えの起こる余裕を無くしているだろう。とは言え、私自身でも、こ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年 七巻一二号」1926(大正15)年10月号

底本

  • 平林初之輔探偵小説選Ⅰ〔論創ミステリ叢書1〕
  • 論創社
  • 2003(平成15)年10月10日