まつりのよる
祭の夜

冒頭文

一 油小路(あぶらこうじ)の五条を少し上がったところに島田寓と女文字でしるした一軒のしもた家があります。その裏木戸のあたりを、もう十分も前から通り過ぎたり、後戻りをしたり、そっと中の様子にきき耳をたてたり、いきなり、びっくりしたようにあたりを見回したりしている一人の男がありました。 大正十五年八月二十三日の夜でした。その晩は京都地方に特有のむしあつい晩で湿度の多い空気はおりのよ

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日 六巻九号」1927(昭和2)年2月20日

底本

  • 平林初之輔探偵小説選Ⅰ〔論創ミステリ叢書1〕
  • 論創社
  • 2003(平成15)年10月10日