ほおのさくころ
朴の咲く頃

冒頭文

一 あたりはしいんとしていて、ときおり谷のもっと奥から山椒喰(さんしょうくい)のかすかな啼(な)き声が絶え絶えに聞えて来るばかりだった。そんな谷あいの山かげに、他の雑木に雑(まじ)って、何んの木だか、目立って大きな葉を簇(むら)がらせた一本の丈高(たけたか)い木が、その枝ごとに、白く赫(かがや)かしい花を一輪々々ぽっかりと咲かせていた。…… それは今年(ことし)の夏になろうとする頃

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1941(昭和16)年1月号

底本

  • 幼年時代・晩夏
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1955(昭和30)年8月5日発行、1970(昭和45)年1月30日16刷改版