とりべやましんじゅう
鳥辺山心中

冒頭文

一 裏の溝川(どぶがわ)で秋の蛙(かわず)が枯れがれに鳴いているのを、お染(そめ)は寂しい心持ちで聴いていた。ことし十七の彼女(かれ)は今夜が勤めの第一夜であった。店出しの宵——それは誰でも悲しい経験に相違なかったが、自体が内気な生まれつきで、世間というものをちっとも知らないお染は、取り分けて今夜が悲しかった。悲しいというよりも怖ろしかった。彼女はもう座敷にいたたまれなくなって、華やかな灯(

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 江戸情話集
  • 光文社時代小説文庫、光文社
  • 1993(平成5)年12月20日