はなをもてるおんな
花を持てる女

冒頭文

一 私はその日はじめて妻をつれて亡(な)き母の墓まいりに往(い)った。 円通寺というその古い寺のある請地町(うけじまち)は、向島(むこうじま)の私たちのうちからそう離れてもいないし、それにそこいらの場末の町々は私の小さい時からいろいろと馴染(なじみ)のあるところなので、一度ぐらいはそういうところも妻に見せておこうと思って、寺まで曳舟通(ひきふねどお)りを歩いていってみることにし

文字遣い

新字新仮名

初出

「文學界」1942(昭和17)年8月号

底本

  • 幼年時代・晩夏
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1955(昭和30)年8月5日発行、1970(昭和45)年1月30日16刷改版