みっつのそうわ
三つの挿話

冒頭文

墓畔の家 これは私が小学三四年のころの話である。 私の家からその小学校へ通う道筋にあたって、常泉寺(じょうせんじ)(註一)という、かなり大きな、古い寺があった。非常に奥ゆきの深い寺で、その正門から奥の門まで約三四町ほどの間、石甃(いしだたみ)が長々と続いていた。そしてその石甃の両側には、それに沿うて、かなり広い空地が、往来から茨垣(いばらがき)に仕切られながら、細長く横(よこた)わ

文字遣い

新字新仮名

初出

三つの挿話は「暮畔の家」「昼顔」「秋」の三篇から成る。暮畔の家:「時事新報」(夕刊連載の「東京新風景」第10回目に「本所」の表題で。)1931(昭和6)年3月21日、22日、24日、25日、26日、27日、加筆訂正後、「墓畔の家」の表題で「作品」に。1932(昭和7)年4月号、昼顔:「若草」1934(昭和9)年2月号、秋:「文藝」(「挿話」の表題で。)1934(昭和9)年2月号

底本

  • 幼年時代・晩夏
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1955(昭和30)年8月5日発行、1970(昭和45)年1月30日16刷改版