にくしゅ
肉腫

冒頭文

一 「残念ながら、今となっては手遅れだ。もう、どうにも手のつけようが無い」 私は、肌脱ぎにさせた男の右の肩に出来た、小児の頭ほどの悪性腫瘍(しゅよう)をながめて言った。 「それはもう覚悟の上です」と、床几(しょうぎ)に腰かけた男は、細い、然(しか)し、底力のある声で答えた。「半年前に先生の仰(おう)せに従って思い切って右手を取り外して貰えば、生命は助かったでしょうが、私のような労働者

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1926(大正15)年3月

底本

  • 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2002(平成14)年2月6日