くぎぬきとうきちとりものおぼえがき 12 ひがんひゃくりょう
釘抜藤吉捕物覚書 12 悲願百両

冒頭文

一 ひどい風だ。大川の流れが、闇黒(やみ)に、白く泡立っていた。 本所、一つ目の橋を渡りきった右手に、墓地のような、角石の立ち並んだ空地が、半島状に、ほそ長く河に突き出ている。 柳が、枝を振り乱して、陰惨な夜景だった。三月もなかば過ぎだというのに、今夜は、ばかに寒い。それに、雨を持っているらしく、濡れた空気なのだ。 その、往来からずっと離れて、水のなかへ出張って

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書
  • 河出書房新社
  • 1970(昭和45)年1月15日