わが心なぐさめかねつさらしなや をばすて山にてる月をみて よみ人しらず 一 上総(かずさ)の守(かみ)だった父に伴なわれて、姉や継母などと一しょに東(あずま)に下っていた少女が、京に帰って来たのは、まだ十三の秋だった。京には、昔気質(むかしかたぎ)の母が、三条の宮の西にある、父の古い屋形に、五年の間、ひとりで留守をしていた。 そこは京の中とは思えない