さんしょううお
山椒魚

冒頭文

K君は語る。 早いもので、あの時からもう二十年になる。僕がまだ学生時代で、夏休みの時に木曾の方へ旅行したことがある。八月の初めで、第一日は諏訪に泊まって、あくる日は塩尻から歩き出した。中央線は無論に開通していない時分だから、つめ襟の夏服に脚絆、草鞋、鍔(つば)の広い麦藁帽をかぶって、肩に雑嚢をかけて、木の枝を折ったステッキを持って、むかしの木曾街道をぶらぶらとたどって行くと、暑さにあたっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「綺堂読物集第五卷 今古探偵十話」春陽堂、1928(昭和3)年8月

底本

  • 文藝別冊[総特集]岡本綺堂
  • 河出書房新社
  • 2004(平成16)年1月30日