さっかとしてのこさかいはかせ
作家としての小酒井博士

冒頭文

最近思いがけない死が私の周囲に頻々と突発する。小酒井博士の死はそのうちでも最も思いがけない死の一つであった。もちろん、博士がしじゅう病気と闘っておられたこと、博士を悩ましていた病気は、かなり難症であったことは知らぬではなかった。だが、博士と死とをむすびつけて考えたことは、私は一度もなかった。博士は、死の間際まで、私たちに死を忘れさせる程、その存在を生き生きと感じさせ、最後まで働くことをやめられなか

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年 第一〇巻第七号」1929(昭和4)年6月号

底本

  • 平林初之輔探偵小説選Ⅱ〔論創ミステリ叢書2〕
  • 論創社
  • 2003(平成15)年11月10日