たまものまえ
玉藻の前

冒頭文

清水詣(きよみずもう)で 一 「ほう、よい月じゃ。まるで白銀(しろがね)の鏡を磨(と)ぎすましたような」 あらん限りの感嘆のことばを、昔から言いふるしたこの一句に言い尽くしたというように、男は晴れやかな眉をあげて、あしたは十三夜という九月なかばのあざやかな月を仰いだ。男は今夜の齢(よわい)よりも三つばかりも余計に指を折ったらしい年頃で、まだ一人前の男のかずには入らない少年であった

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 修禅寺物語
  • 光文社文庫、光文社
  • 1992(平成4)年3月20日