ばんか
晩夏

冒頭文

けさ急に思い立って、軽井沢の山小屋を閉めて、野尻湖に来た。 実は——きのうひさしぶりで町へ下りて菓子でも買って帰ろうとしたら、何処の店ももう大概引き上げたあとで、漸(や)っと町はずれのアメリカン・ベエカリイだけがまだ店を開いていたので、飛び込んだら、欲しいようなものは殆ど何も無かった、木目菓子(バウム・クウヘン)の根っこのところだけ、それも半欠けになって残っていたが、いくら好きでも、これ

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1940(昭和15)年9月号

底本

  • 昭和文学全集 第6巻
  • 小学館
  • 1988(昭和63)年6月1日