くぎぬきとうきちとりものおぼえがき 01 ののじのあと
釘抜藤吉捕物覚書 01 のの字の刀痕

冒頭文

一 早いのが飛鳥山(あすかやま)。 花の噂に、横町の銭湯が賑わって、八百八町の人の心が一つの陽炎(かげろう)と立ち昇る、安政三年の春未だ寒いある雨上りの、明けの五つというから辰の刻であった。 唐桟(とうざん)の素袷(すあわせ)に高足駄を突っ掛けた勘弁勘次は、山谷の伯父の家へ一泊しての帰るさ、朝帰りのお店者(たなもの)の群の後になり先になり、馬道から竜泉寺の通りへ切れようと

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵文藝」1925(大正14)年3月

底本

  • 一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書
  • 河出書房新社
  • 1970(昭和45)年1月15日