あらの
曠野

冒頭文

忘れぬる君はなかなかつらからで いままで生ける身をぞ恨むる               拾遺集 一 そのころ西の京の六条のほとりに中務大輔(なかつかさのたいふ)なにがしという人が住まっていた。昔気質(むかしかたぎ)の人で、世の中からは忘れられてしまったように、親譲りの、松の木のおおい、大きな屋形の、住み古した西(にし)の対(たい)に、老妻と一しょに、一人の娘を鍾愛(いつく)しみ

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1941(昭和16)年12月号

底本

  • 昭和文学全集 第6巻
  • 小学館
  • 1988(昭和63)年6月1日