忘れぬる君はなかなかつらからで いままで生ける身をぞ恨むる 拾遺集 一 そのころ西の京の六条のほとりに中務大輔(なかつかさのたいふ)なにがしという人が住まっていた。昔気質(むかしかたぎ)の人で、世の中からは忘れられてしまったように、親譲りの、松の木のおおい、大きな屋形の、住み古した西(にし)の対(たい)に、老妻と一しょに、一人の娘を鍾愛(いつく)しみ