ヴェランダにて
ヴェランダにて

冒頭文

一九三五年晩秋。或高原のサナトリウムのヴェランダ。二人の患者の對話。 A 君はよくさうやつて本ばかり讀んでゐられるなあ。 B うん。どうも書くことを禁ぜられてゐると、本でも讀んでゐるより他に時間のつぶしやうがないからね。しかし、かうやつて本でも讀みながら、それとなく次の仕事のことでも考へてゐるうちが、僕等には一番愉快なのだよ。 A その本は何だい? B これか。これはジャック・リヴィエ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮」1936(昭和11)年6月号

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日