モオリアックのこと |
モオリアックのこと |
冒頭文
現代作家の中で誰が一番好きかと問はれたら、僕は躊躇せずにモオリアックの名を擧げるだらう。去年の夏は病氣で仕事が出來なかつたので、毎日のやうにサナトリウムの裏山へ行つては木蔭に寢ころんで、東京から取り寄せたフランスの新刊小説に讀み耽つたものだつたが、みんなそれぞれ面白いとは思つたものの、やはりモオリアックのものがどうも一番好きだつた。自分が痛切に求めつつあるものが、其の中にあつたからかも知れない。—
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「作品 第七巻第三号」1936(昭和11)年3月号
底本
- 堀辰雄作品集第四卷
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年8月30日