「マルテのしゅき」
「マルテの手記」

冒頭文

丁抹の若い貴族マルテ・ラウリッツ・ブリッゲがその敗殘の身をパリの一隅によせ、其處でうらぶれた人々にまじつて孤獨な生活をはじめる。 第一部の前半は、先づ、マルテをとりかこむパリの怖ろしい印象でうづまつてゐる。 ボオドレエル、死、憑かれた男、盲目の物賣り、古い家の癩病やみのやうな壁、それからマルテの病氣、いよいよつのる不安…… マルテはかかる不安を告白したのち、幼年時代の

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「東京朝日新聞」1940(昭和15)年2月16日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日