トレドのふうけい
トレドの風景

冒頭文

一九一二年秋、リルケは一人飄然と西班牙に旅した。この西班牙への旅--殊にトレド一帶の何か不安を帶びた風物——は、詩人にはいたく氣に入つたやうに見える。彼は其處にもつと長く滯在して當時彼の心を捉へてゐた仕事(Duineser Elegien)をしたかつたであらうが、この地方の氣候のはげしい變化のために彼の健康はすつかり害せられ、翌年三月には空しく西班牙を立ち去らなければならなかつた。しかしその地方、

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「三十日 第二号」1938(昭和13)年2月1日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日