ゆめ

冒頭文

第七夜 私は少女を搜した。いましがた夜の明けたばかりの、狹い、長方形の部屋の中に、私は少女を見出した。彼女は一つの椅子に腰かけ、僅かにそれと分かるくらゐに微笑してゐた。その傍には、一寸離れて、もう一つの椅子があり、それには一人の青年が腰かけてゐたが、背を靠せた樣子がいかにも硬苦しい。さうしたまま、二人はその夜を過したらしく見える。 少女は身動ぎをして、私に手を差し延べた、私の手

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「四季 第十四号」1935(昭和10)年12月10日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日