すてきち
捨吉

冒頭文

星はない 風もたえた 人ごえも消えた この驛を出た列車が すでに山の向うで 溜息を吐く 白いフォームに おれと おれの影と 驛長と 驛長の影と それだけがあつた 見はるかす高原は まだ宵なのにシンシンと 太古からのように暗い その中で秋草が ハッカの匂いをさせて寢ていた 海拔三千尺の 氣壓の輕さが おれの肺から 空氣をうばつて 輕い目まい このプラットフ

文字遣い

旧字新仮名

初出

「放送文化」日本放送協會、1958(昭和33)年5月号

底本

  • 三好十郎の仕事 第三巻
  • 學藝書林
  • 1968(昭和43)年9月30日