みずのほとり |
| 水のほとり |
冒頭文
私はいま、こんな胸の病氣で、部屋の中に閉ぢ籠つたきり、殆ど外出することなんかないと言つていい位であるが、——いまから數週間前、まだ私の病氣もこんなに重くならなかつた頃のことだ、晝間のうちはそれでも我慢して寢床の中にもぐり込んでゐたが、夕方になるとなんだか耐らない氣持になつて、私は無理に起き上り、出來るだけ氣輕な散歩者のやうな服裝をして、何のあてもなしに街の中へ出かけて行く習慣があつたものだ。そして
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「時事新報」1931(昭和6)年3月21日~22日夕刊
底本
- 堀辰雄作品集第四巻
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年8月30日