まめじでん
豆自伝

冒頭文

私が四歳の五月の節句のとき、隣家から發した火事のために、私の五月幟も五月人形もみんな燒けてしまつた。その火事の恐怖が、私に甚だ強い衝動を與へたため、それまでのすべてのいろいろな記憶が、跡かたもなく消えてしまつたらしい。幼年時代に取材した作品は、「幼年時代」「三つの插話」「花を持てる女」などに書いた。昭和二年、二十四歳の時、「ルウベンスの僞畫」の初稿が出來た。二十七の秋、「聖家族」を脱稿後喀血して、

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文藝往来 創刊号」1949(昭和24)年1月号

底本

  • 堀辰雄作品集第四卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年8月30日