まど

冒頭文

Ⅰ バルコンの上だとか、 窓枠のなかに、 一人の女がためらつてさへゐれば好い…… 目のあたりに見ながらそれを失はなければならぬ 失意の人間に私達がさせられるには。 が、その女が髮を結はうとして、その腕を やさしい花瓶のやうに、もち上げでもしたら、 どんなにか、それを目に入れただけでも、 私達の失意は一瞬にして力づけられ、 私達の不幸は赫(かがや)くことだらう! Ⅱ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「晩夏」甲鳥書林、1941(昭和16)年9月20日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日