Ⅰ バルコンの上だとか、 窓枠のなかに、 一人の女がためらつてさへゐれば好い…… 目のあたりに見ながらそれを失はなければならぬ 失意の人間に私達がさせられるには。 が、その女が髮を結はうとして、その腕を やさしい花瓶のやうに、もち上げでもしたら、 どんなにか、それを目に入れただけでも、 私達の失意は一瞬にして力づけられ、 私達の不幸は赫(かがや)くことだらう! Ⅱ