ふゆ

冒頭文

まだすこしもスポオツの流行(はや)らなかつた昔の冬の方が私は好きだ。 人は冬をすこし怖(こは)がつてゐた、それほど冬は猛烈で手きびしかつた。 人はわが家に歸るために、いささか勇氣を奮つて、 ベツレヘムの博士のやうに、眞つ白にきらきらしながら、冬を冒して行つたものだ。 さうして私たちの冬の慰めとなつてゐた、すばらしい焚火は、力づよく活氣のある焚火、本當の焚火だつた。 人は書きわづらつた、す

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「四季 第十四号」1936(昭和11)年3月10日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日