ふたりのとも
二人の友

冒頭文

一、中野重治 それからもう數年になるのである。 ある日のこと、僕が田端の室生さんのところへ行つたら、室生さんは「昨日は面白い男がきたよ」と云つた。その男は自分は五十位になつたらいい抒情詩が書けさうだと云つてゐたさうだ。そして大へん酒が好きで、そのためかどうか知らないが、動坂の酒屋に間借してゐた。そして近くその酒屋が深川の方に引越すといふのでたぶんその男も一しよについて行くだらう

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「詩神 第六巻第七号」1930(昭和5)年7月号、「文學界 第一巻第四号」1934(昭和9)年9月号

底本

  • 堀辰雄作品集第四巻
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年8月30日