はぎのはな
萩の花

冒頭文

萩の花については、私は二三の小さな思ひ出しか持つてゐない。そのいづれもがみな輕井澤で出遇つたことばかりである。その花の咲く頃、私は大抵この村にゐるからであらう。          ⁂ いつの夏の末だつたか、鶴屋旅館の離れで、芥川さんと室生さんが、同宿の或る夫人のために、女持ちの小さな扇子に發句を寄せ書きなさつたことがあつた。そのそばで少年の私は默つて見てゐたのである。芥川さんはなんでも

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「會舘藝術 第三巻第九号」大阪朝日会館、1934(昭和9)年9月号

底本

  • 堀辰雄作品集第四卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年8月30日