ぞくプルウストざっき
続プルウスト雑記

冒頭文

プルウストに關する三つの手紙を神西清に宛てて書いてから數ヶ月が過ぎた。 その間、私は心にもなく、プルウストの本を殆ど手離してゐた。 唯、ときたま、ガボリイのプルウスト論の中で見つけた「私の月日が砂のやうに私から落ちるのを感ずる悦び」と云ふクロオデルの言葉が思ひがけずに私の口をついて出てくるやうな瞬間があつた。そしてちよつとの間だけ、私はその文句そつくりの悦びに浸つてゐるのだつた

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮」1933(昭和8)年5月号

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日