しょしゅうのあさま
初秋の浅間

冒頭文

この山麓では、九月はたいへん雲が多い。しかし、夏の近づく頃の雲の不活溌な動きとは異つて、白い、乾燥した、動きのいちじるしい雲の塊りが不連續的に通り過ぎる度毎に、何かがそれらの雲とともに一剥されでもしたかのやうに、そのあとで青空はいよいよ本物の青空に近づいてゆく。——さういふ雲のたたずまひが、とても好い。林のなかの空地などに寢そべつて見てゐると、さういふ雲は絶えず西から東へとときどき日かげを翳らせな

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「帝国大学新聞 第七百三十三号」1938(昭和13)年9月26日

底本

  • 堀辰雄作品集第四巻
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年8月30日