しょうせつのことなど |
小説のことなど |
冒頭文
この頃私は逢ふ人ごとにモオリアックの小説論の話をしてゐる位だ。 私はつい最近、彼の小説論を二册ばかりと、「癩者への接吻」といふ小説を一つ、立て續けに讀んだところなのだ。彼の小説論は、勿論本格小説論だが、讀んですこぶる啓發されるところがあつたし、小説の方は彼としてはかなり初期のものらしいが大へん氣に入つた。これこそこの頃私の一番讀みたいと思つてゐた小説であるやうな氣がした。この作以來、モオ
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「新潮 第三十一巻第七号」1934(昭和9)年7月号
底本
- 堀辰雄作品集第五卷
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年9月30日