こうげんにて
高原にて

冒頭文

昨日の夕方、輕井澤から中山道を自動車で沓掛(くつかけ)、古宿(ふるじゆく)、借宿(かりやど)、それから追分(おひわけ)と、私の滯在してゐる村まで歸つてきたが、その古宿と借宿との間には高原のまん中にぽつんぽつんと半ばこはれかかつた氷室がいくつも立つてゐて、丁度いまそのあたり一面に蕎麥の白い花が咲きみだれてゐて、何とも云へず綺麗だつた。この地方特有らしい、その氷室の建物が大へん芥川さんのお氣に入り、か

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「芥川龍之介全集 第一巻月報」1934(昭和9)年10月15日

底本

  • 堀辰雄作品集第四卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年8月30日