がしこじん
我思古人

冒頭文

この夏も末になつてから漸つと「晩夏」が校了になり、ほつと一息ついてゐたら、甲鳥書林から何だか部厚い小包が屆いた。何かと思つたら、一束の檢印紙だつた。ひどく凝つた檢印紙で、一枚々々丁寧に印を捺さなければならないやうな代物なので、やれやれと思つた。その上、これまでの本には大抵それですませてゐた「辰雄」といふ無趣味な印ではすこし檢印紙の方がかはいさうな氣がするので、ふいと妻の亡父が所藏してゐた支那の古い

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「甲鳥 第八輯」甲鳥書林、1941(昭和16)年11月

底本

  • 堀辰雄作品集第四巻
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年8月30日