いちそうわ
一挿話

冒頭文

一九〇八年の春、伊太利のカプリ島に友人に聘せられて再遊し、その冬獨逸で發した宿痾を暫く療養して居つたリルケは、漸くそれから恢復するや、前年來の仕事を續けるために、五月、四たび巴里に出て來たのであつた。先づ、シャンパアニュ・プルミエェル街十七番地にささやかなアトリエを構へた。彼と殆ど前後して、妻のクララも獨逸から巴里にやつて來た。やはり、此の都で彫刻の仕事をするためにである。しかし、リルケはその妻に

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文化評論 創刊号」1940(昭和15)年6月1日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日