あくたがわりゅうのすけろん ――げいじゅつかとしてのかれをろんず――
芥川竜之介論 ――芸術家としての彼を論ず――

冒頭文

1 芥川龍之介を論ずるのは僕にとつて困難であります。それは彼が僕の中に深く根を下ろしてゐるからであります。彼を冷靜に見るためには僕自身をも冷靜に見なければなりません。自分自身を冷靜に見ること——それは他のいかなるものを冷靜に見ることよりも困難であります。しかし、それと同時に、あらゆる文學上の批評の價値は、いかにその批評家が自分自身を冷靜に見ることが出來たか、と云ふ度合によつて測られるので

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「堀辰雄全集 第五巻」新潮社、1955(昭和30)年3月10日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日