ふるさとびと
ふるさとびと

冒頭文

一 おえふがまだ二十(はたち)かそこいらで、もう夫と離別し、幼兒をひとりかかへて、生みの親たちと一しよに住むことになつた分去(わかさ)れの村は、その頃、みるかげもない寒村になつてゐた。 淺間根腰(あさまねごし)の宿場の一つとしての、瓦解前の繁榮にひきかへ、今は吹きさらしの原野の中に、いかにも宿場らしい造りの、大きな二階建の家が漸く三十戸ほど散在してゐるきりだつた。しかもそのなかには半ば廢屋に

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮 第四十巻第一号」1943(昭和18)年1月号

底本

  • 堀辰雄作品集第三巻
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年7月30日