てがみ (「うつくしいむら」ノオト)
手紙 (「美しい村」ノオト)

冒頭文

一 丸岡明に 一九三三年六月二十日、K村にて こつちへ來てから、もう二十日になる。それだのに、まだ何も仕事をしないで、散歩ばかりしてゐる。この頃の散歩道としては、あのM病院の向うの、小川に沿つた一本道がそれはいい。アカシアの花がいま眞つ盛りだ。何ともかんとも云へぬ好い香りがして、その下を歩いてゐるとぞくぞくしてくるくらゐだ。そこでM博士らしいものを見かける。いつもパイプをくはへ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 堀辰雄作品集第四卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年8月30日