せいじゃとししゃ |
| 生者と死者 |
冒頭文
閑古鳥 或る夏、一つのさるすべりの木が私を魅してゐた。ホテルの二階の窓から、私は最初その木を認めた。其處からは、丁度物置かなんぞらしい板屋根ごしにその梢だけが少し見えてゐたので、私はそれをホテルの木だとばかり思つて、ときどき何といふこともなしにそれへ空虚な目をやつてゐただけだつた。……或る日、ホテルの裏の水車の道の方へ散歩に行つて歸つてきた私はいつものやうに裏木戸から這入らうとすると、その日
文字遣い
旧字旧仮名
初出
閑古鳥「新女苑 第一巻九号」1937(昭和12)年9月号<br>山茶花など「新女苑 第二巻第一号」1938(昭和13)年1月号
底本
- 堀辰雄作品集第二卷
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年6月30日