すだち
巣立ち

冒頭文

彼女は窓をあけた、さうすると、まるでさういふ彼女を待つてゐたかのやうに、小屋(コッテエヂ)のすぐ傍らの大きな樅(もみ)の木から、アカハラが一羽、うれしさうに啼きながら飛び下りてきて、その窓の下で餌をあさり出した。けさもまた霧雨がふつてゐるのである。もう七月だといふのに、さうやつて窓をあけてゐると、寒いくらゐだ…… はじめのうちはよく彼女は、その小鳥に何かやらうと思つて、いそいで食物の殘りをもつ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新女苑 第三巻第一号」1939(昭和14)年1月号

底本

  • 堀辰雄作品集第二巻
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年6月30日