ふうけい
風景

冒頭文

波止場の附近はいつものやうに、ぷんぷん酒臭い水夫や、忙しさうに陸揚してゐる人夫どもで一ぱいだつた。僕はさういふさなかを窮窟さうに歩くといふよりも、むしろ人氣のなささうなところを、ところを、と拾ひながら歩いてゐた。すると突然、僕は或るへんてこな一區域に迷ひ込んでしまつたのである。 しかし僕がそこをへんてこなところだなと思つたのは、次の瞬間、人が始めて風景といふものを見たやうな驚きに一變して

文字遣い

旧字旧仮名

初出

第一稿「山繭 第十号」1926(大正15)年3月1日、改稿「文學 第六号」1930(昭和5)年3月1日

底本

  • 堀辰雄作品集第一卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年5月28日