はばたき アイン メルヒェン |
羽ばたき Ein Marchen |
冒頭文
Ⅰ 丘の上のU塔には、千羽の鳩が棲んでゐた。それらの鳩がいちどきに飛翔すると、空は眞暗になつた。そしてしばらくそれらの羽音がU塔を神々しく支配した。それらの羽ばたきは何となく天使の羽ばたきを思はせた。 傳説によると、U塔のある丘は昔の仕置場の跡ださうだ。そしてこの塔の中には囚人が幽閉されてゐたといふことである。だが今では誰も知らないのだ、そのためにこんな淋しい場所になつてゐるの
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「週刊朝日 第十九巻第二十八号」1931(昭和6)年6月21日号
底本
- 堀辰雄作品集第一卷
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年5月28日