ねずみ

冒頭文

彼等は鼠のやうに遊んだ。 彼等はある空家の物置小屋の中に、どこから見つけてきたのか、數枚の古疊を運んできて、それを一枚一枚天井の梁の上に敷きつめた。するとそのおかげで、そこには——天井と梁との空間には、一種の部屋のやうなものが出來あがつた。それは祕密好きな子供らが誰にも見つからずに遊ぶためには屈竟な場所だつた。その隱れ場はしかし黴のにほひがした。 そこは、一日中、うす暗かつた。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「婦人公論 第十五年第七号」1930(昭和5)年7月号

底本

  • 堀辰雄作品集第一卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年5月28日