しのデッサン
死の素描

冒頭文

僕は、ベツドのかたはらの天使に向つて云つた。 「蓄音機をかけてくれませんか?」 この天使は、僕がここに入院中、僕を受持つてゐるのだ。彼女は白い看護婦の制服をつけてゐる。 「何をかけますか?」 「シヨパンのノクタアンを、どうぞ——」 蓄音機の穴から、一羽の眞赤な小鳥がとび出して來て、僕の耳の中に入つてしまふ。それからその小鳥は、僕の骨の森の中を自由にとびまはり、そして最後に

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮 第二十七年第五号」1930(昭和5)年5月号

底本

  • 堀辰雄作品集第一卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年5月28日