あるこいのはなし
ある恋の話

冒頭文

私の妻の祖母は——と云って、もう三四年前に死んだ人ですが——蔵前(くらまえ)の札差(ふださし)で、名字帯刀御免(みょうじたいとうごめん)で可なり幅を利(き)かせた山長——略さないで云えば、山城(やましろ)屋長兵衛の一人娘でした。何しろ蔵前の札差で山長と云えば、今で云うと、政府の御用商人で二三百万円の財産を擁しておろうと云う、錚々(そうそう)たる実業家に当る位置ですから、その一人娘の——尤(もっと)

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人之友」1919(大正8)年8月

底本

  • 藤十郎の恋・恩讐の彼方に
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1970(昭和45)年3月25日