りょうごくのあき
両国の秋

冒頭文

一 「ことしの残暑は随分ひどいね」 お絹(きぬ)は楽屋へはいって水色の❡5❡4(かみしも)をぬいだ。八月なかばの夕日は孤城を囲んだ大軍のように筵張(むしろば)りの小屋のうしろまでひた寄せに押し寄せて、すこしの隙(すき)もあらば攻め入ろうと狙っているらしく、破れた荒筵のあいだから黄金(こがね)の火箭(ひや)のような強い光りを幾すじも射(い)込んだ。その箭をふせぐ楯のように、古ぼけた金巾(かな

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 江戸情話集
  • 光文社時代小説文庫、光文社
  • 1993(平成5)年12月20日