なかなかしなぬあいつ
仲々死なぬ彼奴

冒頭文

一 大熊(おおくま)老人にとって、凡(およ)そ不思議な存在は、少年喜助(きすけ)であった。 喜助君なら、今でも一緒に抱いて寝てやってもよいと思っているのであった。今年廿二(にじゅうに)歳になって、たいへん大人びてきた喜助君の方でも、抱かれることには大いに賛成であろうと思われる。 大熊老人といえば、あの人かと誰でもがすぐ思い出すほどの金満家(ミリオネア)であった。八十二歳に

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年7月号

底本

  • 「探偵」傑作選 幻の探偵雑誌9
  • 光文社文庫、光文社
  • 2002(平成14)年1月20日