まるのうち |
丸の内 |
冒頭文
ドンが鳴ると 震災ずっと以前のことであった。今はもう昔がたりになったが、あの小さい劇場の有楽座が建ったはじめに、表に勘亭流(かんていりゅう)の字で書かれた有楽座という小さい漆塗りの看板が掛っていたのに、私は奇異の眼をみはった事があった。この有楽座というのは、その頃はまだ珍しい純洋式の建築であった。どこを探しても和臭というものはなかったが、独(ひと)りこの勘亭流の字だけに従来の芝居の名残(
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日
底本
- 大東京繁昌記
- 毎日新聞社
- 1999(平成11)年5月15日