序 漱石氏と私との交遊は疎(うと)きがごとくして親しく、親しきが如くして疎きものありたり。その辺を十分に描けば面白かるべきも、本篇は氏の書簡を主なる材料としてただ追憶の一端をしるしたるのみ。氏が文壇に出づるに至れる当時の事情は、ほぼ此の書によりて想察し得可(うべ)し。 大正七年正月七日 ほととぎす発行所にて 高浜虚子 漱石氏と私 一