のらもの
のらもの

冒頭文

一 「月魄(つきしろ)」といふ関西の酒造家の出してゐるカフヱの入口へ来た時、晴代は今更らさうした慣れない職業戦線に立つことに、ちよつと気怯(きおく)れがした。その頃銀座には関西の思ひ切つて悪(あく)どい趣味の大規模のカフヱが幾つも進出してゐた。女給の中にはスタア級の映画女優にも劣らない花形女給も輩出してゐて、雑誌や新聞の娯楽面を賑(にぎ)はしてゐた。世界大戦後の好景気の余波と震災後の復興気分とが

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」1937(昭和12)年3月

底本

  • 現代文学大系 11 徳田秋声集
  • 筑摩書房
  • 1965(昭和40)年5月10日