はる |
春 |
冒頭文
今朝 昨夜(ゆうべ)、空を通つた、足の早い風は、いま何處を吹いてゐるか! あの風は、殘つてゐたふゆを浚つて去(い)つて、春の來た今朝(けさ)は、誰もが陽氣だ。おしやべりは小禽(ことり)ばかりではない。臺所の水道もザアザア音をたて、猫はしきりにおしやれをしてゐる。 町では煙草のけむりが鼻をかすめ、珈琲が香(かん)ばしく、電車のレールは銀のやうに光り、オフイスの窓硝子は光線を反映(なげかへ)し
文字遣い
旧字旧仮名
初出
今朝「令女界」1936(昭和11)年4月1日、昨今「文藝懇話會」1937(昭和12)年3月、ブルー・パイ「モダン日本」1937(昭和12)年7月1日、男に生れるのなら「現代」1933(昭和8)年3月
底本
- 桃
- 中央公論社
- 1939(昭和14)年2月10日